あなたが他の人に暴力をふるったとしたら、犯罪者扱いされるかも知れません。でも数人の暴漢に会社が襲われて大切な書類や現金などを奪われそうになったときに、戦い、なおかつ暴漢の一人を捕らえたとしたら、翌日には表彰されるかも知れません。同じ言動でも状況や背景によって意味づけが変わってきます。ですから言動だけで評価は出来ません。
部下のパフォーマンスを観察する場合、4つの要素に耳を傾けることをお薦めいたします。ひとつ目の要素は状況・背景(Situation)です。「どのような状況だったのか?」を訊きます。二つ目の要素は職務・任務(Task)です。「何をすることになっていたのか?」に焦点を当てます。三つ目は言動(Attitude)です。「何を言ったのか、言わなかったのか、したのか、しなかったのか?」を具体的に引き出します。そして四つ目は結果(Result)です。「言動の結果としてどのような変化が生まれたのか?」を確認します。4つの要素の英語の頭文字をつなげて「STARコンセプト」と呼ぶこともあります。結果は先生です。言動が効果的であったか否かを教えてくれるものです。また、4つの要素を観察するとき、その情報が事実であるかどうかに注意を向けたいものです。
〈コーチング事例〉
店長 | 「新人のY君に今週2度目のお客様からのクレームですよ。採用のミスですよ。彼は面接の時、茶髪金髪だけじゃなく右の耳に3つのピアスですからね。何でY君を採用したんだろう。」 |
コーチ | 「大変でしたね。髪の色や耳のピアスに対するクレームですか?」 |
店長 | 「いえ、そうではないですけど・・・。商品知識が乏しいことに対してのクレームですね。」 |
コーチ | 「Y君は採用されて7ヶ月目ですね。彼に商品知識を覚えさせる責任者は誰ですか?」 |
店長 | 「・・・それは私ですけど、・・・。忙しくて、そんなに関わっていられないんですよ。」 |
コーチ | 「ええ、忙しいでしょうね。そして問題の本質は、店長であるあなたが充分な教育指導をしていないということにあるかも知れませんね。いかがですか?」 |
店長 | 「う〜ん、そういうことですね。」 |
コーチ | 「相変わらず忙しい、にも拘わらず、明日からどのように商品知識の教育をしていくかということについて今から話し合って決めましょうか?」 |
店長 | 「う〜ん、私が原因とは参ったな。よし決めましょう。お願いします。」 |
この事例は事実ではなく憶測や思い込みによって人を判断していた店長とのコーチングです。人に焦点を当てると批判になりやすいものです。事実に焦点を当てて、改善可能な範囲に絞ってコーチングのテーマ設定をすると、問題は解決しやすくなります。