私の大学時代のアルバイトはテニスのコーチでした。年上の生徒を指導するのですが、相手を心開かせ、動機付け、上達を促すコミュニケーション能力が要求されました。当時のコーチングの参考書だった『インナー・ゲーム・オブ・テニス』『インナー・テニス』の著者、ティモシー・ガルウェイは「コーチングとは相手の潜在能力を解放することである」と言っています。テニスの生徒を指導することを通して、徐々に私は人々の意識や態度を高次元に変容させるコミュニケーションの可能性に魅力を感じ始めました。
1990年、当時私が勤務していたコンサルティングとトレーニングを業務とする会社の筆頭副社長J・コズビー氏との面談で「あなたの仕事は何ですか?」と訊かれました。私の返答は覚えていませんが、彼は「あなたの仕事の本質は、クライアントをコーチして彼らを勝利に導くことだ」と言いました。私が「どのようにコーチングするのですか?」と訊き返すと、彼はブルーの瞳で私を見つめながら「クライアントに会って、彼らとコミュニケートしながら注意深く観察すると良い。そして質問するんだ。クライアントの反応からどのように指導したらよいかのヒントが得られる」と言いました。
その言葉に励まされて、私は翌日からコーチしはじめました。それからの3年間だけで600人以上とコーチング・セッションを行いました。今から振り返ると、柔軟性に欠けるコーチングでしたが、それでもクライアントは変化し成果を作りました。そして人生が変わったと多くのクライアントから感謝されたのです。
「いまだにコーチされたときのメモを額縁に入れて大切に飾っています」と連絡してくれた人は14年を経た現在、ある食品会社の社長になりました。