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コーチングコラム

コーチへのヒント「知覚のマジック」

第8回 鉄鋼労連元会長 故宮田義二氏の思い出

「労使」を2つの対立するフレームでとらえるのか、ひとつのフレームでとらえるのか。

もちろん、「労」と「使」は別々のものではあります。 一人ひとりだと立場が弱い「労」が団結して「使」と交渉することを通して、賃金のアップや労働条件の改善を勝ち取ってきた歴史があります。 議論が平行線でまさに闘争そのものになった場面も頻繁にありました。 その結果として、利用者(=お客様)が不便を被ったこともありました。 そうして「使」の側の譲歩を引き出す戦略が取られてきました。 これが労使対立路線で起きていたことです。 今でも起きます。

しかし労使協調路線は別々のフレームをより大きなフレームの中に入れてみるという思考が働いた結果の選択です。 「問題は、その問題を作っている論理レベルでは解決しない」というアインシュタインの名言があります。 より高い論理レベルに移行することで問題解決するという原則に沿ったものだと言えるかもしれません。

「労」と「使」という2つのフレームを含む、もうひとつ大きなフレームでとらえると、そのフレームの外側はお客様、あるいは世の中ということになります。 労使のお互いは敵ではなくお客様の満足のために協調していくのだという信頼関係に基づいて、同意できる選択肢を話し合いで探っていこうとする立場です。 お互いの立場を理解したうえで、今必要な対策を打っていこうじゃありませんかという現実的な道を選んでいるとも言えるでしょうか。

労使協調路線を築いた連合の重鎮のひとり、宮田義二氏が平成24年6月22日にご逝去されました。 88歳でした。
鉄鋼労連元会長、IMF−JC第2代議長を歴任し、また公益財団法人松下政経塾創設者である松下幸之助から請われて第二代塾長を務めました。

昭和63年頃のことでした。 宮田先生に会って近況報告をした時のことを思い出しました。
「おい、久しぶりだったなあ。 元気でやってた? うん、たまには顔出せよ。」と大きな声で迎えていただきました。
「おかげさまでまあまあ元気にやっております。」
「どうだい。 何か困っていることはないか?」
「宮田先生、このままだと活動しにくいので、何か名刺の肩書きを考えていただけませんか。」
「それなら、松下政経塾指導塾員ってのはどうだ。」
「指導塾員? えっ、いいんですか?」
「構わん、構わん。 こういう良く分からない肩書きがいいんだ。 利用できるものは利用しろ。 君だけだぞ。 おい、特別だぞ(笑)。 だが、たまには本当に指導に来てくれよ。」
「まだ指導してないんですが、いいですか?」
「田近君、この前、塾生に何か講義をしに来たんじゃなかったか?」
「あれは、まあ呼ばれましたので、恥ずかしながらさまざまな失敗体験談を。 」
「それで充分だろ。 指導実績ありだ(笑)。」
「ありがとうございます。 では使わせていただきます。」
「まあ、がんばんなさい(笑)。 人を助けるのが俺の仕事だから。 いいか、田近君な。 人と付き合うときは徹底的だ。 たとえばだ、君が関係者と飲んでいて、その人が2次会、3次会に行こうと言ったら付き合えよ。 それで朝方帰宅しても、1時間だけ寝て起きて、本を読めよ。 若いうちは、そうやって努力するんだよ。 おれはそうやってきたんだよ。 わははは・・・」

破顔一笑。 日焼けした、皺だらけの顔。 温厚で、プラスのエネルギーがあふれていて、信義と人情の厚い人。
労使協調路線を築いた人物は、日常でも大きな思考フレームの持ち主でした。
宮田義二さん、ありがとうございました。 ご冥福を心からお祈り申し上げます。


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