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コーチングコラム

コーチへのヒント「知覚のマジック」

第7回 綺麗(きれい)ごとに本気

真正の勝利は・・・

当時30歳前後だった私は大きな勝負に出ました。あの頃の私にとってはまさに人生をかけた勝負でした。当時の仲間たちの中には「目的のために手段を選ばずと言うだろう。どんな手段を使ってでも勝ちに行こう!お前のように綺麗ごとを言っているだけでは駄目だ」と私を批判する人もいました。その度に私は「いや、目的のために手段を選ばなければいけない」と反論していました。そして結果として挫折体験が待っていました。私は強気の姿勢を崩すことはありませんでしたが、「自分はまだまだ甘いなあ」と内心では思っていました。

それからしばらくして大きな封書が届きました。差出人は私が当時たいへんお世話になっていた鍵山秀三郎さん(株式会社イエローハット創業者であり当時は社長。現在は「日本を美しくする会」の相談役)でした。封書から出てきたのは1枚の模造紙でした。広げてみると、
 真正の勝利は目標の達不達ではなく、目的の達不達にあり
と力強く揮毫されていました。支援していただいた鍵山さんからの痛烈なメッセージでした。「顔を上げろ。もっと未来に目を向けろ。そして前に進め」という激励のメッセージが行間に感じ取れました。その頃の私は目的と目標の違いなどそれほど意識していなかったと思います。目標に到達しなかったので目的も失ったかのように感じていたのかも知れません。

原理原則を大事にする

この言葉は私にじわじわと効いてきました。「目標達成は叶わなかった。しかしまだ目的は生きている!」と思いました。あらためて目的やビジョンという遠くにある映像に目を向け続けることの大切さを教えられました。目的やビジョンという大きな枠組みの中には目標という小さな枠組みが複数含まれています。目的とは理由であり、目標とは期限付きの目当てです。目標=GOALは、もともと「到達線」のことです。マラソン競技で1番手の選手は白いテープを切ることが出来ます。目的は「なぜ走るのか」という問いへの答えになります。

ときどき、「ビジョンと目標はどちらが大事か」と聞かれます。どちらも大事ですと正解をお伝えしても良いのですが、私は個人的にはビジョンの方が大事だと思うと答えています。いくつかの目標を統合した方向性こそが大事なのです。どこに向かうのかが重要なのです。向かう先、つまりビジョンとは現実的で信頼性のある魅力的な未来像です。そして自分や組織の未来像を言葉や映像で表現すると、とても綺麗な表現になるものです。そして多くの場合、綺麗ごとは抽象的であり、一般論的内容です。
たとえば、「家族を愛することは大事である」ことは一般論ですが、「なかなか勉強しない子供に今日どのように具体的に接するのか」は各論になります。「家族を愛する」ことに本気でないと、「子供が勉強しないから腹が立って制裁を加えた」ことに自己正当化が働きます。「家族を愛する」ことに本気ならば、暴力は正当化されないということがわかるはずです。家族を愛するために、暴力とは別の選択肢を考えざるを得なくなります。目的に基づく原理原則という総論的枠組みを持って、それに腹をくくっていないと、具体的な状況で言動がぶれてしまうことになるのです。

言葉どおりに生きる

人の言動を観察して、その人物の意識の枠組みの大きさに気づくことで対人関係のヒントが得られます。自分を含むより大きな環境のために何かをしようとしているのか。それとも自己正当化のために何かをしているのか。その人物は彼/彼女が生きている環境(家庭、職場や社会)との関係の中でどのような総論にどのようなレベルで同意しているのか。何を大切にして生きているのか。総論と各論との間に一貫性を生み出そうと努力しているかどうか。大きな枠組みがしっかりしている人の方が具体的な状況の中でぶれることなく、柔軟性を発揮します。

家庭には家庭の目的があります。会社組織には組織の、そして国家には国家の目的があります。目的、ビジョンあるいは夢の内容、価値観はとても大きな枠組みなので抽象的で綺麗な表現になります。会社の経営理念には理想が書かれています。理想を語ると、「そんな綺麗ごとを・・・」と批判的に反応する人がいます。でも経営理念や価値観はすべてが綺麗ごとなのです。綺麗ごとに本気にならなかったら目的やビジョンの実現を初めから放棄しているようなものです。そこで、強くお薦めしたいことがあります。あなたにとっての綺麗ごとを本気で生きるということです。

練習してみましょうか。
今のあなたにとって大切な5つくらいの言葉を思い出しましょう。
そして書き出しましょう。
さあ、その言葉にあなたが意味づけしていることに従って、これからの1年間をしっかりと生きていきましょう。それは決して楽ではありません。でもやってみるだけの価値はあります。
「私は、人々の中から『ビジョンを生きる!』というコミットメントを呼び起こすことを通して、誰にとってもうまくいく世界を創りだしています。」これが私の約20年前からのビジョンステイトメント(宣言文)です。そしてこの綺麗な言葉にますます本気です。

2011年12月7日


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